木軸住宅の倒壊解析ソフト『ウォールスタット』に制震検証機能

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倒壊シミュレーション過程倒壊シミュレーション過程

2018年1月下旬、木造軸組構法住宅の倒壊解析ソフト『wallstat(ウォールスタット)』に制震装置取付け後の検証ができる『バージョン4』が追加される。

『ウォールスタット』は国土交通省の研究機関である国土技術政策総合研究所(国総研)の主任研究官・中川貴文氏が開発したもので、国総研のホームページから無料ダウンロードできるフリーソフト。パソコン画面上に躯体の立体骨組みをモデル化して表示し、振動台実験のように1995年の兵庫県南部地震や2011年の東北地方太平洋沖地震といった特定の地震動を与えることで、躯体全体の地震時の損傷状況や倒壊過程をアニメーションで見ることができるほか、それらを家の中にいる視点でも確認できることが特徴だ。

その最新版となる『バージョン4』では、減衰定数や剛性を数値設定できる制振壁が実装されるほか、パラメータを公開している市販の制震システムの組み込み機能が追加されるなど、制震システム検証機能が加えられる。

中川氏は木造戸建ての新築を行う事業者が地震に強い木軸住宅を建てる際に役立ててもらうため、今後は制震システムのほか市場で流通している耐力壁や金物などを使った場合の検証もできるように「『ウォールスタット』の内容をより充実させていきたい。制震システムの販売者、建材・金物メーカーの方々に、ぜひご協力いただきたい」と話している。

耐力壁や金物も今後対象に

『ウォールスタット』は東京大学農学部で木質構造を学んでいた中川氏が、在学中の1995年に起きた兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)を契機に、研究対象を木構造の耐震性とし、卒論のテーマとしたところから形作られ始めた。

その後、中川氏は大学院の博士課程時代に『木造住宅の地震時の倒壊過程シミュレーション』に関するテーマで現在の『ウォールスタット』の基になる解析理論を論文としてまとめると同時に、検証プログラムを独自開発した。

そのプログラムは当初、自らの研究にのみ利用していたが、独立行政法人建築研究所(当時、建研)勤務時代に誰でも使えるソフトに発展させて同じ分野の研究者に使ってもらったところ好評だったことから、2010年12月に建研のホームページ上に『ウォールスタット』の名称でソフトの無料ダウンロード環境を作った。

その後『ウォールスタット』は、15年半ばにプレカットCADのファイル『CEDXM(シーデクセマ)』とのデータ連携を可能にしたことで入力の手間が大幅に削減されて利用が伸び、16年4月に起きた熊本地震の後は、さらにダウンロードの増加傾向が顕著になっている。

熊本地震後の木造戸建て業界のトピックの一つに、オプション・標準のいずれかで木造用制震システム導入の動きが強まったことが指摘できる。東京ビッグサイトで11月下旬に行われた建材展示会を記者が取材した際、出展していた木造戸建て用の制震装置メーカーの担当者にラインアップしている制震システムの販売量の推移を聞いた。

その担当者は「11年の東日本大震災以降、順調に伸びており、特に熊本地震後はさらに伸びている。熊本地震は震度7が2回など繰り返しの大きな揺れがあったほか、2000年以降の新耐震基準の家が倒れたことも大きい。今も準大手クラスの木造住宅会社、大手の建売分譲事業者など複数の大型案件の商談中」との主旨を話し笑顔を見せたが、すぐ真顔になり以下を付け加えた。

「戸建て木造用の制震市場が拡大するのは嬉しいが、各社ともシェア拡大に力を入れているため価格競争が厳しい。商談ではどうしても『どれ位安く入れられるのか』の話になってしまう」。

今後の販売に課題も

2017年12月21日付1面に掲載
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2018年12月25日 住宅産業新聞社 編集部

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