今回も補助金の採択率を高めるために事業者が申請書類作成時に考慮しなければならない「勘所」について紹介します。
補助金申請においては、「なぜこの事業に補助金が必要なのか」、つまり「補助金がなければ実現できない理由」を明確に説明することが非常に重要です。補助金は国や自治体が限られた財源の中で支給する公的資金であり、その活用には「政策的な意義」とともに「補助の必要性」が求められます。もし仮に、補助金がなくても同じように事業を実施できる、もしくはすでに実施しているのであれば、そもそも補助対象としての正当性を欠いてしまいます。
事業者の多くは、自社にとっての事業の重要性や成長性について熱意を込めて説明しますが、それだけでは採択に至りません。審査員が重視するのは、「この事業は補助金によって初めて実現可能となるか」、「この事業に公的資金を投入するのは合理性があるか」という観点です。そのため、「補助金がなければなぜ事業実施が困難なのか」や「補助金によってどれくらい事業実施のハードルが下がるのか」を論理的に説明する必要があります。
たとえば、「省エネ補助金を使って、老朽化した機械を最新鋭の省エネ機器に更新したい」という意向があったとします。この場合、「省エネ性能が高く、環境にも良いので導入したい」と事業計画に記載するだけでは、補助金の必要性は十分に伝わりません。「当社の年間利益規模では、当該設備の導入に必要な投資額は大きな負担となり、計画は棚上げになっていた。今回の補助金を活用することで自己負担を大幅に軽減でき、事業として実行可能となる」といった記載があることで、「補助金がなければ実現できない」理由が具体的に示され、審査員にも納得感を与えることができます。
また、補助金の必要性を伝える際には、企業の財務状況や収益構造に基づいた数値的な裏付けがあるとより説得力が増します。たとえば、「直近の営業利益率は3%に留まっており、大規模な投資を行う余力がない」、「昨年度は赤字決算であり、金融機関からの借入余地も限られている」といった記述は、資金的制約の実情をリアルに伝える有効な材料となります。なお、過度に悲観的な印象を与える必要はなく、「健全に経営しているが、今回の設備投資は通常の運転資金の範囲では対応できない」というように、冷静かつ客観的なトーンで記載することが望ましいです。
さらに、「補助金によって実現される波及効果」も併せて伝えることで、補助の正当性を補強できます。つまり、「この補助事業は、当社の利益のためだけではなく、地域経済の活性化や雇用の創出など、公共的な価値を生むものである」ことを示すのです。たとえば、「この事業の実現により、新たに30名の雇用創出が見込まれる」、「地域内の取引業者との連携が深まり、地元経済への波及効果が期待できる」といった記述は、補助金支給の意義を高める要素となります。
加えて、審査上の注意点として、「補助金がなくても実施する予定だったことが伝わってしまう表現」は避けるべきです。たとえば、「本事業は既にやることが決定しており、仮に採択されなくても絶対実施する」といった内容は、減点対象となる恐れがあります。そのため、事業の開始時期や意思決定のタイミングには細心の注意を払い、補助金の採択後に着手する計画であることを明確に示す必要があります。
「補助金がなければ実現できない理由」を明確に示すことは、補助金の趣旨と正当性を訴求するための核心的な要素となります。審査員に対して、「この事業は補助金があって初めて実行できるものであり、それによって社会的にも意義のある成果が期待される」という構図をわかりやすく伝えることが、採択に近づく鍵となります。
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