
事業計画を策定する際には、将来のビジョンや市場動向を考慮するだけでなく、自社の現状を正確に把握することが欠かせません。そのための有効な手段が、財務諸表の分析です。
財務諸表は、企業の経営状況を数字で客観的に示すものであり、自社の強みや弱みを把握する手がかりとなります。今回は、財務諸表から自社の課題を把握するためのコツや留意点についてご説明いたします。
◇ ◇
まず注目すべきは損益計算書(P/L)です。売上高の推移や利益率を確認し、収益構造に問題がないかを見極めます。特に「売上高成長率=前年や過去数年と比較して成長が鈍化していないか」、「売上総利益率(売上総利益/売上高)=競合他社と比べて低すぎないか」、「営業利益率(営業利益/売上高)=本業で十分な利益を確保できているか」が重要です。
もし売上は伸びているのに利益率が下がっている場合は、原価や販管費の増加が課題となっている可能性があります。逆に売上が横ばいで利益率も低い場合は、事業そのものの競争力に課題があると判断できます。
次に貸借対照表(B/S)を確認します。B/Sは「企業の健康診断書」ともいわれ、財務体質の強弱を把握できます。この書類では以下3点の指標を確認できます。
「自己資本比率(自己資本/総資本)」では、借入依存度が高くないかを確認でき、30%未満だと資金繰りに不安が残るケースが多いです。「流動比率(流動資産/流動負債)」は短期的な支払い能力を示す指標であり、100%未満なら注意が必要です。「固定比率(固定資産/自己資本)」では、不動産や機械設備などの固定資産に資金が偏りすぎていないかを確認できます。
キャッシュフロー計算書(C/F)は、実際にお金がどのように動いているかを示すものです。利益が出ていても、資金繰りが悪化していれば経営は不安定になります。「営業キャッシュフロー」は本業でどれだけ現金を生み出しているかを確認でき、マイナスであれば早急な改善が必要です。「投資キャッシュフロー」では、設備投資が適切な範囲か、将来の成長につながる投資かどうかを見極められます。「財務キャッシュフロー」は借入金や返済の状況を確認し、資金調達に過度に依存していないかを判断できます。特に中小企業では、キャッシュフローの安定が事業継続に直結するため、C/Fのチェックは不可欠です。
財務諸表は単体で見るのではなく、相互のつながりを意識することが重要です。たとえば、売上が増えているのに営業キャッシュフローが減少している場合は、売掛金回収の遅れが原因と考えられます。また、「総資本回転率(売上高/総資本)=総資産でどれだけ効率的に売上を生み出せるか」のように、P/L・B/Sの数値を組み合わせる指標もあります。
加えて、財務分析では、自社単独の数値だけで判断するのではなく、他社や業界平均との比較が有効です。たとえば、自己資本比率が40%であっても、同業他社の平均が60%であれば財務的には弱いと評価できます。過去の自社データとの比較により、改善傾向か悪化傾向かを把握できます。
最後に、数値を見て単に「利益が少ない」と結論づけるのではなく、「なぜ利益が少ないのか」、「どの部門のコストが増加しているのか」、「市場環境が影響しているのか」といった原因を探ることが大切です。そして、事業計画はその原因に対する解決策を提示するものでなければなりません。
◇ ◇
事業計画策定時に財務諸表を活用することは、自社の現状を客観的に把握し、今後の課題を明確にする上で必要不可欠です。
財務諸表を「単なる会計書類」ではなく、「未来への羅針盤」として活用する姿勢が事業の成長につながるのです。
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