
中小企業庁が実施する公的支援には、補助金の他に税制優遇があります。税制優遇を活用すれば、設備の取得価額の一部を税額控除したり、減価償却費を事業初年度に一括計上したりできます。税制優遇は補助金と併用できる場合があり、設備投資にかかる負担をより軽減することができます。今回は税制優遇について解説します。
特定の目的に沿った事業計画を策定し、事務局に認定されると、その事業計画に記載した設備投資に関して、税額控除や即時償却等を受けられます。主な事業計画として、経営基盤強化のための生産性向上を目的とした「経営力向上計画」、労働生産性向上のための大型設備の導入を目的とした「先端設備等導入計画」等があります。
経営力向上計画では、設備の取得価額の10%を税額控除できます。つまり、3千万円の設備投資をした場合、300万円の法人税が減額されることになります。また、税額控除の代わりに即時償却することも可能であり、事業初年度に減価償却費を一括計上できます。これにより、その年度の課税所得を低く抑えることができ、キャッシュフローを改善できます。なお、税額控除と違い、長期的に見れば課税額は変わりません。
先端設備等導入計画では、対象設備に係る固定資産税を3年間ゼロにすることができます。3千万円の設備投資の場合、減価率が0・206とすると、固定資産税は取得価額3千万円×(1-減価率0・206/2)×税率1・4%≒37万6700円(100円未満切捨)となります。この固定資産税が3年間ゼロになるため、37万6700円×3年間=113万100円分の固定資産税を支払う必要がなくなります。
なお、先端設備等導入計画を認定するのは市区町村長です。市区町村によって、は固定資産税を1/2にする特例を採用していたり、そもそも採用していなかったりする場合があります。そのため、「市区町村」+「先端設備等導入計画」で検索して、その自治体が特例を採用しているか確認しましょう。
最大8千万円の事業再構築補助金や最大1250万円のものづくり補助金と比較すると、税制優遇によって軽減される負担は少ないです。しかし、補助金は受給できる金額が大きいものの、申請に至るまでの書類の準備が煩雑です。さらに、採択率はおおよそ40~60%程度であり、適切に申請しても必ず採択されるとは限りません。
一方、税制優遇の場合、申請準備は補助金より容易であり、適切な事業計画を策定して申請手続きすれば必ず採択されます。そのため、同一事業について補助金と税制優遇の両方を活用することをおすすめします。たとえ補助金で採択されなくても、税制優遇を活用できることができます。
経営力向上計画と先端設備等導入計画の併用も可能です。たとえば、3千万円の設備投資をした場合、ものづくり補助金の申請で補助額1250万円を受給、先端設備等導入計画で固定資産税113万100円を控除、経営力向上計画で法人税300万円を控除、合計1663万100円分の負担が軽減されることになります。
しかし、補助金・税制優遇を活用する最大のメリットは設備投資の経費を軽減することではありません。事業計画の策定を通じて「自社の経営課題は何か?」「どうすれば売上や生産性が向上するのか?」等の現状把握・分析ができることにあります。
また、補助金も税制優遇も設備投資にかかった費用の一部が浮くだけであり、短期的に見れば必ず損します。その損を補える程の生産性向上を事業者に促すことが補助金・税制優遇の本来の目的です。
どれくらいの金額がお得になるかだけでなく、損した分の金額以上の利益を出せる事業計画を策定できるかに重点を置きましょう。
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株式会社ナビット(https://www.navit-j.com/)
東京都千代田区。「地下鉄乗り換え便利マップ」などを展開するコンテンツプロバイダー。地域特派員5万8100人の全国の主婦ネットワークにより、地域密着型の情報収集を得意とする。
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