
こうした価格競争の結果、懸念されるのは、制震システム販売側が、適切なセット数を提案したら売り負けるのではと恐れて本来必要な設置数を過小に提案し、その説明を信じた住宅会社が、効果が適切に発揮されない制震システムを搭載した木軸住宅を消費者に販売してしまうことだ。
制震システムを導入する住宅会社が系列会社のものではない制震システムを購入・設置する場合、その設置計画は制震システムの販売側が行う場合がほとんどで、システムを設置される住宅会社側が、その適切性を検討することは極めて困難だ。
住宅の耐震性向上には躯体をより『剛構造』とする以外に免震・制震で地震時の揺れを吸収する手段があるが、このうち免震は日本建築学会から『免震構造設計指針』が1989年に出されているものの、制震は木造戸建住宅を対象としては建築基準法も含め現在も公的な設計指標が無い。また、市場で流通する大臣認定取得をアピールしている制震システムでも、その認定対象は壁倍率であり、制震性能ではない。
アイディールブレーン、制震『ミューダム』のデータ提供
こうした現状から、木造戸建て向けの制震システムを販売しているアイディールブレーン(東京都千代田区、佐藤孝典社長)は『ウォールスタット・バージョン4』に制震システムの検証機能が追加されることについて、「良いことだと思う。性能とコストを適正化するという本来の市場競争のあり方で勝負できるうえ、必要なセット数を住宅会社に説明する際の根拠にもなる」と歓迎すると同時に、『ウォールスタット』について「国総研という国の機関が扱っているということが、業界内はもちろん、今後エンドユーザーの間で認知が広がる際にも信頼獲得の面で大きいだろう」と高く評価する。同社では来年1月にリリースされる『ウォールスタット・バージョン4』に、金属流動の活用が特徴の自社の制震ダンパー『μDAM(ミューダム)』のパラメータを提供し、設置後の効果検証を可能にする方針だ。
『ウォールスタット・バージョン4』で市場に流通している制震システムや耐力壁および金物の検証機能を持たせるには、前述のように制震システムや建材を供給する側がデータをユーザーに提供する必要があるが、これは逆に見ると、データ提供側が故意に誤ったデータを渡すことも可能と言える。
この点を『ウォールスタット』の開発者である中川氏は、「性能評価試験などから一定の法則でパラメータ化できる方法を試行的に検討しているため、ある程度は公正にパラメータ化してもらえると思う。しかし、すべてを精査することは不可能だ。ソフトの利用は結果を含め、データの供給側やユーザーの責任で使用していただきたい」と説明している。