会社員等の扶養家族となっている配偶者が年収130万円以上になると、社会保険料を負担する必要があります。この負担によって実際の手取り額が減少します。いわゆる「130万円の壁」と呼ばれるものです。政府は、この「130万円の壁」に達したことによる社会保険料の負担を解消するため、企業が従業員の社会保険料を肩代わりした場合、従業員1人あたり最大50万円の助成金を支払う施策を検討しているとのことです。今回はこの「130万円の壁」と社会保険料の肩代わりの助成金について解説します。
社会保険とは、被保険者が怪我や育児・介護休業等の理由によって、働くことができなくなり、収入が低下した際、その生活を保障する公的支援です。社会保険は「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「雇用保険」「労災保険」の5つがあります。より厳密に定義すると、健康保険と介護保険、厚生年金保険が「社会保険」、雇用保険と労災保険が「労働保険」に該当します。また、労災保険は会社が全額負担しますが、それ以外については被保険者も負担しなくてはなりません。
この社会保険のうち、会社員が原則加入しているのが健康保険と厚生年金保険です。保険料は勤務先の企業が1/2を負担し、残り1/2が給料から天引きされています。
この健康保険料・厚生年金保険料を負担している会社員に配偶者がいる場合、その家族は「扶養家族」とみなされます。「扶養家族」とされた配偶者は、健康保険に加入しなくても健康保険が使うことができ、かつ健康保険料・厚生年金保険料の支払いもしなくて済みます。ただし、社会保険上で「扶養家族」と判断されるのは、あくまで「年収130万円未満の配偶者」のみです。配偶者がパートやフリーランス等の仕事をして、年収130万円以上になると「扶養家族」とは判断されなくなり、社会保険の加入及び健康保険料・年金保険料の負担をする義務が生じます。
配偶者がパート先で社会保険に加入した場合、年収130万円以上になると、収入から算定される標準報酬月額に応じた保険料支払いが必要になります。一方、自営業やフリーランス等企業に所属していない人が対象となる国民健康保険に加入している場合、国民年金の第1号被保険者になり、国民健康保険に対する保険料支払いだけでなく、国民年金保険料の支払いが必要になります。どちらにしろ、収入のおおよそ15%程度の社会保険料を負担しなくてはなりません。
また、「年収130万円」には交通費が含まれます。もらった給料が年間120万円だとしても交通費が年間12万円としたら、社会保険料の支払い義務が発生することになります。さらに、結婚してない独身世帯は年収130万円未満でも「扶養家族」とはならないため、社会保険料を払う必要があります。
ちなみに、「130万円の壁」の他にも「103万円の壁」という言葉もあります。こちらは社会保険料ではなく、所得税において配偶者控除が受けられるかどうかの判断基準となります。配偶者の年収が103万円以下の場合、「控除対象となる配偶者」とみなされ、配偶者控除を受けられることができます。
専業主婦が当たり前とされていた時代では「扶養家族」制度は機能していましたが、夫婦共働きが当たり前となっている現代においては「扶養家族」に該当する配偶者は少なくなっています。共働きの方が世帯収入は増えますが、近年は物価高に加えて、税金や社会保険料も上昇しており、家計を大きく圧迫しています。
そこで政府は、社会保険料の支払いによる家計負担を緩和するために、新たな助成金を設ける方針とのことです。助成対象者は企業です。企業が従業員の社会保険料を肩代わりした場合、従業員1人あたり最大50万円が支給されます。開始予定時期は2023年内とのことです。
社会保険料が年間50万円となる年収はおおよそ300万～350万円程度となります。つまり、それ以下の年収であれば、全額助成されることになります。従業員の福利厚生やエンゲージメント向上のために、この助成金の活用を検討してみましょう。
