注目の助成金(87)従業員の在籍出向を支援する助成金

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新型コロナの影響で事業主が事業の一部を縮小し、その分の従業員を辞めさせざるを得ない事態が全国各地で発生しています。そこで厚生労働省では、事業活動を縮小した事業主が、雇用維持のために従業員を他社へ在籍出向した際の賃金・経費を支援する産業雇用安定助成金を設けています。この助成金は出向元だけでなく出向先の事業主に対しても助成します。今回はこの産業雇用安定助成金について解説します。

対象となる事業主ですが、新型コロナの影響により事業縮小している必要があります。「緊急事態宣言を受けて休業したため客数が減った」「観光客が激減し、売上が減少した」などが該当します。季節的変動や事故・災害による事業縮小は対象外です。

事業縮小の基準ですが、直近1ヵ月の生産指標の値が前年または前々年同月比5%以上(または計画届を提出した月の前年同月から計画届を提出した月の前々月までの任意の1ヵ月に比べ5%以上)減少している必要があります。

在籍出向は、期間終了後、以前の事業所に戻ることを前提としなければなりません。子会社への出向、代表取締役が同じ企業への出向など、関連企業への出向は認められません。出向先で別の人を離職させる「玉突き出向」も対象外です。出向までに、出向に関する労使協定を締結しておくことが必要です。

対象となる従業員は、雇用保険の被保険者であれば、アルバイトなどの非正規労働者も対象となります。なお、雇用期間が6ヵ月未満の従業員や日雇い労働者などは対象外となります。

対象経費は「出向運営経費」と「出向初期経費」に分かれます。出向運営経費は主に出向元・出向先事業主が支払う賃金が対象となります。賃金に対する助成は、出向前後の賃金を比較して算出し、出向元・出向先の負担割合に応じて行われます。他には、対象労働者の労務管理・人事評価・面談・教育訓練等に要する経費も対象となります。上限額は1人1日当たり1万2千円となります。助成率は中小企業4/5、大企業2/3となります。ただし、出向元が解雇などを行わず雇用維持をした場合、中小企業9/10、大企業3/4にアップします。「雇用維持」と認められるには、「支給対象期末日時点での出向元の労働者数が、支給対象期初日の前日の属する月から遡った6ヵ月間平均の4/5以上であること」「支給対象期初日の前日から遡って6ヵ月前から支給対象期末日まで解雇しないこと」という条件を満たす必要があります。

出向初期経費は、就業規則・出向契約書の整備、出向元事業主による教育訓練、出向先事業主が出向者を受け入れるための機器・備品の整備等を行った場合に助成されます。ただし、経費の一部を助成するのではなく、出向者1人あたりの定額助成となります。出向元・出向先それぞれに対して1人につき10万円が助成されます。出向元が「運輸業、郵便業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業に該当する」または「直近3ヵ月間の生産指標の月平均が前年同期比20%以上減少している」場合、5万円が加算されます。また、出向先が出向元とまったく異なる業種の場合、出向先も5万円が加算されます。

出向運営経費・出向初期経費ともに教育訓練が対象経費となりますが、その教育訓練は出向先の業務に関連したリアルタイム研修にしなければならず、マナー講習やハラスメント研修、eラーニング・通信教育は対象外となります。経費について他の助成金を受給している場合、その経費を支給対象とすることはできません。

申請の流れは、まず出向の具体的な内容を検討し計画を立て、計画届を労働局へ提出します。計画届は出向元が出向先の作成した書類を含めて提出する必要があります。そして、計画届に基づき出向を実施した後、出向元が支給申請します。出向元・出向先どちらかが支給要件を満たさなかった場合、双方が不支給となるため、注意が必要です。

産業雇用安定センターで企業間の出向先の斡旋を無料で行っています。従業員の雇用維持が困難となっている事業者は是非この助成金を検討してみてください。

    株式会社ナビット(https://www.navit-j.com/)
    東京都千代田区。「地下鉄乗り換え便利マップ」などを展開するコンテンツプロバイダー。地域特派員5万8100人の全国の主婦ネットワークにより、地域密着型の情報収集を得意とする。
    最新の情報は、助成金・補助金の検索サービス「助成金なう」へ
2021年06月10日付6面に掲載
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2018年12月25日 住宅産業新聞社 編集部

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