戸建住宅の大手企業が、低層賃貸住宅分野に対する新たな提案を活発化させている。
相続税の税率アップを控え、有利な資産運用先としての賃貸住宅経営が、資産家層に注目されつつあるためだ。縮小する新築市場を前提にしながらも、戸建ての注文住宅で培ったノウハウを生かし、個性的なプランや差別化によりターゲット層を絞り込むことで、一般的な賃貸住宅の汎用性に飽き足らなくなった層を取り込もうとする動きが出てきた。「高齢者」や「女性単身者」、「子育て」といったキーワードもみえる。
賃貸住宅が注目を集めている、大きな要因の一つが相続税だ。
相続税で賃貸住宅に注目集まる
2015年1月1日施行の改正相続税法により、納税対象者が大幅に増えるということ。基礎控除額として、これまで5千万円+法定相続人(配偶者や子ども)1人あたり1千万円が無税だったが、施行後は3千万円+法定相続人1人あたり600万円に減額される。
単純計算で相続人が妻と子ども2人の場合、従来は遺産総額が8千万円までは無税だったのに対し、改正後は4800万円を超えた額に対し課税されることになる。
これに対する一つの回答が賃貸併用住宅といえるだろう。まずは所得税の軽減。賃貸併用住宅の賃貸部分に相当するローンの利息、建物の固定資産税、賃貸の募集にかかった費用、修繕費用、建物・設備の減価償却費などは必要経費とすることができる。
年間の賃料収入からこれら必要経費を差し引いて帳簿上マイナスになると、このマイナス部分を他の給与所得等と合算することが可能で、これを損益通算という。
赤字額に応じて、所得税が軽減されるだけでなく、翌年の住民税も軽減されるので大きな節税効果が期待できる。三井ホームが発売している『ウィズ・レント』は、賃料収入で自宅建築費の負担が軽減できる仕組みの賃貸併用住宅となる。
事前対応で相続争い抑える
ランドマーク税理士法人の高橋一志・マーケティング企画室室長は、「かつて、遺産は長男が総取りというのが不文律のようにあったが、今は兄弟姉妹にも相続する権利があることが理解されるようになり、それぞれの配偶者も絡み揉めやすくなった」と警鐘を鳴らす。「保険や賃貸住宅による〝非課税〟という枠を使うことで、脱税せずとも資産が残せることを理解してもらう」とした。事前の相続対応は家族間の相続争いも抑えられるという。
一方で、最近の賃貸住宅は空室率が高まりつつあり、市場が縮小傾向にあるとみられるのも事実。ただ、各社の担当者は「高い空室率は郊外で駅から遠い物件であって、駅から徒歩圏で買い物など利便性の高い場所なら空室率は高くない。建てる場所と家賃設定さえ間違えなければ採算性は十分」と口を揃える。
市場縮小という背景の中でも「中長期的には、都市部におけるシニア向けバリアフリー賃貸、単身世帯向けの住戸面積の大型化と外装・設備・デザインの高級化ニーズは強まる」(関係者)とみる。
戸建貸家というジャンルに取り組んでいるのが住友林業。賃貸住宅でありながら戸建住宅として売却もでき、所有地の分割や複数棟数の建設による相続時のスムーズな資産継承が行えるのもメリットという。旭化成ホームズの『ヘーベルハウス ロンド・コンパクト』は、自己居住用住戸に加え、あらかじめ二世帯住宅や賃貸住宅への転用など、多様な対応を可能にする住戸を加え(+1住戸)ての建設を提案するもので、利用価値の高い都市部の建替需要喚起につなげる。
オートロックにエレベータ付き推奨
オーナーの長期安定経営や負担軽減に主眼を置いた取り組みも。積水ハウスは、「ホテルライク」をテーマに、室内廊下でオートロック仕様、エレベータ付きを推奨。初期投資は高めだが、入居者の満足度の点で長期安定経営につながるとした。
住友林業が新しい提案と注力するのが、東京近郊(1都3県)で展開する『フォレストメゾン・シェアハウス』。東日本大震災以降で20歳代~30歳代に強まる〝絆〟への関心の高まりに着目した。「新たな市場を開拓する」との意気込み。また、旭化成ホームズの『ヘーベルメゾン・ニューサフォレ』は都市で暮らす女性の安心感に配慮した。
今後、増加が見込まれるサービス付き高齢者向け賃貸住宅への取り組みも始まった。初の専用商品『セレブリオ』を投入した積水ハウスでは、新たな事業分野として、グループの管理会社積和不動産や医療法人、介護事業者との連携も強めていく。
ターゲットを絞り込んだ展開も強まる。旭化成ホームズは、独自の「コミュニティ形成型賃貸住宅」を推進。ペットとの共生や子育て期の母親が望む賃貸住宅のあり方提案を盛り込んだ。積水ハウスも、賃貸住宅にコミュニティ菜園を隣接する提案を行っている。