
事業計画を策定するにあたり、競合他社の動向を正しく把握することは欠かせません。どれほど自社の強みを整理しても、競合環境を踏まえていなければ計画の現実性や説得力は弱まってしまいます。競合分析は単なる情報収集ではなく、「自社の立ち位置を相対的に理解し、今後の戦略を具体化する」ための作業です。今回は、補助金申請時の勘所として、事業計画策定時の競合分析のコツと留意点について解説します。
競合分析の第一歩は、「誰を競合とするか」を正しく定義することです。直接的な同業他社だけでなく、代替商品や新規参入の可能性も考慮する必要があります。
たとえば、飲食業であれば同じ料理を提供する店舗だけでなく、デリバリーサービスやコンビニ食品も競合となり得ます。事業計画では、「直接競合」「間接競合」「潜在的競合」といった分類を行い、分析対象を明確にすることが効果的です。
競合他社の財務データや経営戦略は、公開情報から得られる場合が多くあります。上場企業であれば有価証券報告書や決算短信、中小企業でもプレスリリースやホームページ、業界団体の調査資料などから有益な情報が収集できます。これらを体系的に整理することで、競合の強みや弱みを浮き彫りにすることが可能です。ただし、情報は断片的であるため、推測に依存しすぎず、複数の情報源を突き合わせて検証する姿勢が求められます。
競合分析は「競合そのものをみる」のではなく、「顧客がどのように競合を選ぶか」という視点で行うことが大切です。顧客が重視するのは価格、品質、利便性、ブランド力などさまざまです。自社と競合の商品が顧客にとってどの点で優れており、どの点で劣っているのかを明確にすることが、差別化戦略の根拠となります。事業計画には「顧客にとっての比較優位性」を盛り込むと、説得力が増します。
収集した情報を整理する際には、SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)やポジショニングマップといったフレームワークが有効です。たとえば、価格軸と品質軸で競合をマッピングすると、自社のポジションが一目で分かります。こうした図表を用いると、第三者に対しても直感的に理解してもらえます。
競合分析は現状の把握にとどまらず、将来的な変化を見据えることが重要です。新規技術の登場、消費者ニーズの変化、規制や補助金制度の変更などにより、競合環境は大きく変わり得ます。環境規制の強化によってエコ関連製品が優位になる場合や、デジタル化の進展によって新しいプレイヤーが台頭する場合があります。事業計画では、こうした外部環境の変化を踏まえた競合予測を示すことで、より現実的かつ戦略的な計画になります。
競合分析を説得力あるものにするためには、できる限り数値データで裏付けることが大切です。市場シェア、販売価格帯、売上高、成長率など、具体的な数値を用いることで、主観的な印象にとどまらない分析となります。もし直接的な数値が入手できない場合は、調査会社のレポートや業界紙などの参考データを引用することも有効です。
競合分析を行う際の留意点として、競合の動向ばかりに気を取られて、自社の独自性や強みを見失わないことが挙げられます。あくまで競合分析は「自社の立ち位置を理解するための手段」であり、模倣するためのものではありません。他社の成功事例を参考にすることは有益ですが、それをそのまま取り入れても差別化にはつながりません。自社ならではの価値を見いだす視点を忘れないことが肝要です。
事業計画策定時の競合分析は、単なる情報収集ではなく、自社の立ち位置を把握し、将来の戦略を描くための基盤となります。競合分析した上で、競合を過度に意識しすぎず、自社の独自性をアピールしていくことが、持続的な成長を実現する鍵となります。
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