災害時のレジリエンス性が求められる設備の一つにトイレがある。そしてその影響の深刻さは、インフラにまで被害がおよぶ大地震の際、特に顕著となる。
2011年3月の東日本大震災で震度5強を観測した千葉県浦安市では、市内の広範囲で大規模な液状化被害が発生。市内に建つ全住宅建築物の2割弱に被害が発生するとともに、下水道システムが長期にわたり機能不全に陥った。
下水道システムの機不全が長期化したのは、〝勾配を利用し下水を集める〟という下水ならでは構造が背景にあった。
一般的に自治体の下水収集は、高低差を設けて埋設した下水管の中を汚水が自重で流れる仕組みがベースになる。これに対し上水・ガスは圧力で供給するシステムだ。
東日本大震災で液状化が発生した浦安市の下水管は、埋設状況が当初の設計から変化して勾配に異常を来したり、継ぎ手がずれて液状化した土砂が流れ込んだりしたため内部があちこちで詰まり、その結果、下水管の最も〝川上〟に位置する各家庭のトイレが使用できない事態が起きた。
浦安市を地元とする明海大学の調査によると、市内のインフラが使えなかった期間は上水の5~10日、ガスの5~15日に対し、下水はそれらの数倍となる25~30日だった。復旧が長期化したのは、下水管が地中にあるため被害箇所の特定に時間を要したこと、その埋設深度がガス管や上水管と比べ深い位置に埋められている場所もあり作業に手間取る案件があったこと――などが理由だ。
同様に〝トイレが使えない〟状態が発生した事例に、1995年1月の阪神・淡路大震災がある。
阪神・淡路大震災では多くの被災者が行政の施設に避難したが、主に上水の断水で施設内のトイレが場所によっては数週間使用できなかった。
地震後の火災でも被害を受けた兵庫県神戸市長田区の区庁舎内では、地震後一週間以上経っても庁舎内に設置されたトイレのうち大便器が使用できず、庁舎に避難してきた被災者は老人も含め、寒い中を外の仮設トイレまで出て行かなければならなかった。
運搬負担も軽減
こうした状況のうち断水時の対応としてLIXIL(東京都千代田区、瀬戸欣哉社長)は4月、INAXブランドのパブリック用災害配慮トイレで「ジャパン・レジリエンス・アワード2019」(一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会主催)の企業・産業部門で最優秀レジリエンス賞を受賞した、「レジリエンストイレ」を発売した。
特徴は、(1)洗浄に要する水量が通常時用の5リットル、断水時用の1リットルに切り替え可能(2)排水横主管内の汚物滞留を抑制する「手動給水方式」「汚水循環方式」の配管設計の推奨(施工時はどちらか一方を選択)――などだ。
洗浄水を1リットルとしたのは、洗浄水確保の容易さを高めるとともに、運搬時の負担軽減も狙ったものだ。
「500ミリリットルのペットボトル2本に分ければ運搬時の負担が軽くなり、子どもでも運んで給水できる」(LIXIL)。
また、下水につながる配管内の空気を遮断するシステムとして、一般的なトイレがトラップ構造を採用しトラップ部にかなりの水量を溜めるのに対し、レジリエンストイレは空気遮断の主な役割を洗浄レバーの操作に連動して開閉する便鉢底部の弁に持たせ、弁上のたまり水はその効果を補完する機能として、洗浄水量が5リットルの際は1・5リットル溜まる水の量を、洗浄水量1リットルの場合は500ミリリットルに抑えた。
LIXILはレジリエンストイレの特徴をアピールするとともに、「建物内のトイレは台数に限りがあるため、仮設トイレやマンホールトイレなどと併用して防災力を高めることが重要」としている。