事業計画書は、目的によって求められる内容や強調すべきポイントが大きく異なります。同じ計画書であっても、「誰に向けて書くか」によって評価基準が変わるため、読み手を意識せずに作成すると、必要な情報が不足したり、逆に余計な情報を詰め込んでしまったりなど、効果が半減してしまいます。
そこで重要なのが、「銀行向け」「補助金向け」「社内向け」という3つの読み手の特徴を理解し、それぞれに適した見せ方を意識することです。
銀行が最も気にするのは、「この会社に貸したお金が予定どおり返ってくるか」という点です。そのため、銀行向けの事業計画書では、「収益性・キャッシュフローの安定性」、「事業の実現可能性(過去の実績や根拠の明確さ)」、「返済計画の妥当性(無理のない資金繰り)」、「経営者の信頼性・実行力」が重視されます。
銀行は投資家ではないため、革新性よりも「堅実さ」を評価します。そのため、銀行向けの計画書では「安定した売上見込み」「確実な回収可能性」「既存顧客や実績の強さ」を丁寧に示すことが大切です。
一方、過度に楽観的な売上予測やリスク説明の不足はマイナス評価となります。銀行は「最悪のケースにも耐えられるか」を見ているため、リスクとその対策について明記することで信頼性が高まります。
補助金の審査では、「事業そのものが優れているか」以上に「補助金の目的に適合しているか」が重要視されます。つまり、補助金は投資ではなく「政策を実現するための手段」であることを念頭に置かなければなりません。
補助金向け事業計画では、「政策目的と事業内容の整合性(貢献度の高さ)」、「補助金がなければ実現できない理由」、「波及効果(地域や業界への効果)」、「定量的な成果指標(売上・生産性・CO削減など)」などが主要ポイントとなります。
銀行と比べて、補助金では「革新性」や「社会的意義」も大きな評価ポイントになります。「単なる設備更新」ではなく、「これにより生産性が〇%向上する」「地域雇用に貢献する」「新しい価値を生む」といった効果の説明が必要です。また、審査員はその企業のことを何も知らないため、平易で分かりやすい文章、背景説明、図表の活用も不可欠です。
社内向けの事業計画は、銀行や補助金とは目的がまったく異なります。社内向けの最大の目的は、社内関係者の理解と協力を得て、組織を動かすことです。
よって、社内向けでは「事業全体の方向性(ビジョン)を共有する」、「部署ごとの役割・責任範囲を明確にする」、「いつ・誰が・何をするかを明確にする」、「KPI・目標値を設定する」、「社内リソースの配分計画を示す」と言ったポイントが重要になります。
銀行のような堅実さ、補助金のような社会効果よりも、「会社全体の意思統一」「人や時間の配分」「社内での協力体制づくり」が中心となります。また、社内向け計画は読み手の専門知識が前提となるため、内部用語を使っても問題ありませんが、部署間で認識がズレないよう、図表やフローチャートを積極的に活用すると効果的です。
事業計画書は、読み手によって求められる重点ポイントが異なります。銀行向けは「返済可能性、財務の健全性、堅実さ」、補助金向けは「政策目的との整合性、波及効果、革新性」、社内向けは「ビジョン共有、役割分担、実行計画」です。
同じ事業でも、強調すべきポイントや必要な説明は全く異なります。そのため、事業計画書を作成する際は、「まず読み手を明確にする」ことが何より大切です。
読み手に合わせて構成や見せ方を調整することで、計画書の説得力は格段に高まり、採択・融資・社内合意といった目的に大きく近づくことができます。
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