新型コロナウイルス感染拡大で「緊急事態宣言」発令後の大手住宅企業、事業所休業・対面接客を自粛=要請前の早期決断で感染防止

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新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、安倍晋三首相は7日夜、7都府県に緊急事態宣言を発令した。

政府がイベント関係の自粛を発表した2月末以降、在宅勤務やテレワーク、対面での接客、積極的な新規開拓営業などの自粛に取り組んでいた大手住宅企業は、宣言対象地域内の事務所や住宅展示場の休業、出社の原則禁止など、より厳しい対応をとり始めた。

自治体によって、要請内容や開始時期が異なるため、全国に支社・支店を展開する大手企業では「方針が固まり次第、速やかに指示・要請に従う」と、知事の発言に備える。

7都府県の住宅市場規模(新設住宅着工ベース)は国内の約5割を占めるため、経営に与える影響も大きい。緊急事態宣言発令後の大手住宅企業の対応を追った。

大和ハウスは事業所を閉鎖

緊急事態宣言が発令された7日夜、大和ハウス工業が同社ホームページ上で同社の対応を発表した。対象となる7都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県)にある26事業所を8日から5月6日まで、一時的に閉鎖するという内容だ。閉鎖対象事業所には大阪本社、東京本社も含まれており、住宅展示場も原則、閉鎖する。ただし、事業継続と緊急事態に備えて、必要最小限の従業員を配置する。従業員の半数にあたる約1万2千人を在宅勤務とした。

宣言翌日の8日午前、同社の東京広報グループに電話したところ、グループの責任者が対応してくれた。すでに出社人数を大幅に制限。現在は、各部署の責任者1人が出社して在宅勤務の準備を進めており、9日からは順次出社人数を減らしていくという。「外部からの電話は、責任者の携帯電話番号を伝える自動応答に切り替える予定」(同社)。

緊急事態宣言の直後、各自治体からの具体的な措置内容が公表される前に、同業他社に先駆けて対応策を発表した大和ハウス工業。同社が宣言翌日に1万人を超える大規模な出社制限に踏み切れたのは、今年7月に予定されていた東京オリンピック開催期間中に、約3千人のテレワーク実施に向けた「備え」を進めていたことや、2月25日から時差出勤やテレワークなど、事前に柔軟な働き方を推進していたためだろう。

このほか、積水化学工業住宅カンパニーは東京本社が在宅勤務を実施。ミサワホームでは3月末から東京都内事業所で在宅勤務を開始しており、13日時点では地域を問わず全社で5月6日まで在宅勤務を実施している。住友林業は、宣言対象の7都府県の事業所の全社員と、7都府県に居住する全社員が、4月末までの予定で原則在宅勤務を実施する。「8割以上の社員を在宅勤務とする」のが当面の目標だ。三井ホームは7都府県の事業所に勤務する従業員を対象に在宅勤務を強く推奨。業務の7割を在宅とする目標を掲げている。

ただし、テレワークや在宅勤務が困難な職種・業務もあり、「全社員がテレワークでパフォーマンスを落とさずに業務ができるかについては課題」(積水ハウス)としている。また、在宅勤務の対象者が数百人規模となる大手企業では、ネットワーク接続が集中する始業・就業時間前後は、通信速度や作業・処理が遅くなるという問題も発生しており、対応に追われている。

宣言を受けて対応を強化

緊急事態宣言を受けて、各社の住宅営業現場はより一層、厳しい状況となった。「対面での折衝を避け、ウェブを有効活用したコミュニケーション手段を提案」(積水ハウス)、「お客様、社員、関係者の安全を最優先し、お客様の強い要望がある場合のみ、商談や契約を案内している」(住友林業)、「設備機器の修理対応など、オーナーの暮らしを維持する最低限の業務を継続できる人員のみ配置」(旭化成ホームズ)、「ウェブでお客様からの相談に対応する『オンライン相談』を実施」(三井ホーム)――。各社ごとに対応の差はあるものの、住まいや暮らしを支える事業者として、顧客や従業員の命を守るための行動を最優先する点においては足並みが揃っている。

新規顧客獲得の重要な窓口と位置付ける住宅展示場では、2月末のイベント開催自粛要請以降、集客が激減した。新型コロナウイルス感染症拡大防止対策として、定期的な換気、アルコール消毒液や殺菌スプレーの常設、マスク着用での案内、完全予約制、人数制限などをしながら営業を続けてきたが、緊急事態宣言後は業務自体を停止、閉鎖する動きが広がっている。

8日午後、都内の住宅総合展示場に人の気配はなく、新規モデル棟の建設現場が稼働していた。電気の消えた各社モデル棟の玄関には、臨時休業や予約限定の案内が貼り出され、すでに感染拡大防止に向けた厳しい対応が講じられていた。トヨタホームは緊急事態宣言発令前に当面の休業を決定。旭化成ホームズは宣言を受け、対象地域の展示場と分譲マンションモデルルームを当面の間、閉鎖するとホームページ上で発表した。一方、ミサワホームは打合せ場所を分散する目的で、展示場のモデル棟を個別の打合せの場所のひとつとして利用するという。集客目的ではない展示場の新しい活用方法だ。

なお、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)施行令では、床面積の合計が1千平方メートル超の展示場に対して休業要請ができるとされているが、東京都は10日、1千平方メートル以下の展示場についても、特措法によらない休業の協力依頼を行うとした。他府県も都の決定に追従するとみられる。これを受け、積水ハウスは同日、都内展示場の休業の検討を開始するとした。

非対面商談、ウェブ活用に活路

対面による積極的な営業活動は自粛しているものの、新規受注獲得に向けた新たな取り組みも出始めている。電話やウェブを活用した「対面しない住宅提案」だ。

積水ハウスは4月末まで、「おうちで住まいづくり」キャンペーンを展開している。(1)自宅にいながらVRによる豊富なプランニングを体験(2)カフェやホテルなど好きな場所で打合せ(3)同社のベテラン設計士による1日1組限定の商談会では、すべてオンライン打合せ対応可能とした。非対面での打合せを推奨する。

このほか、大和ハウス工業はウェブ限定の戸建住宅商品「ライフジェニック」、旭化成ホームズは厳選した間取り・仕様を揃えた企画型商品「マイデッサン」を用意しており、ウェブによる新規受注に対応する。

ミサワホームは、販売地域を限定したウェブ専用商品を開発・販売する可能性を示唆。住友林業は、展示場の休業で落ち込んだ新規顧客を下支えするため、テレワークや外出自粛に伴う自宅待機者向けに、ウェブ広告を強化する。

外出自粛要請の長期化に備えた試行錯誤が、自粛で静まりかえった営業現場の水面下でスタートしている。

2020年04月16日付1面に掲載
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2018年12月25日 住宅産業新聞社 編集部

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